秋田家庭裁判所角館出張所 昭和36年(家)92号 審判 1964年2月14日
申立人 本田良子(仮名)
相手方 沢村成男(仮名)
主文
一、相手方は申立人に対し、財産分与として
(1) 秋田県仙北郡田沢湖町○○字○○○○○番の七宅地三六坪
(2) 同県同郡同町○○字○○○○番地、家屋番号同所第○○番
木造草ぶき平家建店舗一棟 建坪三坪 七合五勺
附属
木造草ぶき平家建居宅一棟 建坪一五坪 七合五勺
木造草ぶき平家建店舗一棟 建坪三坪 五合
木造草ぶき平家建居宅一棟 建坪二七坪 九合五勺
に対する相手方持分全部
を分与し、相手方において手続費用負担のうえ、(1)の所有権及び(2)の持分権の各移転登記手続をせよ。
二、本件審判費用はこれを二分し、その各一を申立人及び相手方の負担とする。
理由
第一、秋田地方法務局角館出張所登記官吏作成の登記簿謄本二通、田沢湖町長作成の戸籍謄本二通、角館町長作成の戸籍抄本一通、鑑定人大沢清一作成の評価書、鑑定人浅利泰一作成の鑑定書、卒田神代牧野農業協同組合理事長作成の証明書、卒田神代部分林組合組合長作成の証明書、証人田村シズ、同真田良男、同真田ツナ、同中原新治、同加藤進、同本田ヨネ、同沢村百子の各供述、申立人及び相手方(いずれも一、二回)各審問の結果、家庭裁判所調査官の調査結果を綜合すれば、次の諸事実が認められる。次
一、当事者双方の婚姻に至るまでの経歴
申立人は、昭和二年五月八日三人姉妹の長女として生れ、小学校高等科を卒業後、かねて肩書住所地において理髪店を営んでいた母本田ヨネの許で同人と共に理髪業に従事していたものであり、一方相手方は、大正一一年三月一〇日八男として生れ、小学校高等科を卒業し、昭和二一年六月頃復員後は家業の農業に従事していたものであるが、昭和二二年二月頃、申立人はその長女としての立場上、近隣に住む相手方を自宅に迎えて同棲し、同年一〇月二四日申立人の氏を称することとして婚姻届をなした。
二、婚姻から離婚までの経緯
申立人は相手方と婚姻後も引続き肩書住居において母ヨネと共に理髪業を営み、他方相手方は婚姻後暫く発電所、製材所、営林署等に日雇労務者として通勤稼働した後、昭和二八年八月頃から申立人の肩書住居に熔接の仕事を主とする鍛冶屋を開く傍ら、婚姻後買入れた田畑の農耕に従事して来た。
ところで、婚姻後右鍛冶屋開設に至る頃までは申立人と相手方との夫婦仲も平穏であったが、右鍛冶屋は相手方が発電所に稼働中見覚えた程度の技術に過ぎず、客も殆どないような状況であり、他方申立人の理髪業は相当繁昌を続け、生活費は専ら理髪業の収入を以て賄い、田地等の買入も申立人の収入に負うところ多大であり、この頃から相手方は毎夜のように飲酒しては人が変ったように大声で叫び威張り散らすようになり、農耕も殆ど人頼みで自らは余り働かず徒遊勝の状態となり、夫婦仲も漸次不和の度を深めて行った。
かくするうち、昭和三三年秋頃から、申立人が理髪の顧客として出入していた山田一郎と親しくなるに及び、相手方はこれを嫉妬して申立人に対し暴力を振うようになり、昭和三四年一〇月末頃、申立人は遂に肩書住居を家出し、右山田の世話で岩手県○○町に間借し理髪店を開いたが、営業振わず、昭和三五年八月中旬再び肩書住居に立戻った。
次いで同年九月一五日申立人と相手方は夫婦生活の継続不能として協議離婚するに至ったが、長女伸子(昭和二三年三月二日生)、次女律子(昭和二六年三月一日生)の親権はいずれも申立人が行使して監護養育することと定め、なお差当り肩書住居の店舗兼居宅(別表四の建物)中理髪店舗を含む一階二七坪三合七勺、二階(梁の上に板を敷き物置として使用)一一坪を申立人において、鍛冶場を含む一階一九坪二合八勺を相手方においてそれぞれ区分居住することと定めた。
以上のとおり、申立人と相手方の離婚の直接の原因は、申立人が山田一郎と懇になり家出したことにあると言うべきであるが、その遠因は、相手方が酒癖悪く怠惰な生活を続け家庭を顧みること少く夫婦関係を不和に陥らしめたことにあると認められる。
三、離婚から現在までの状況
申立人は離婚後間もない昭和三五年一一月頃から前記山田一郎と内縁関係を結び、同人と共に母ヨネ(昭和三七年三月八日死亡)、長女伸子、次女律子並びに右山田との間にもうけた友子(昭和三七年六月一九日生)を抱えて肩書住居に居住し、引続き理髪店を経営して月収平均四万〇、〇〇〇円をあげ、右山田は営林署道路工事に従事して自己の生活費を申立人に渡しその余の収入は親元へ送金するという生活を続け、その後長女伸子は秋田市の理髪学校に入学し、また右山田は群馬県に出稼して右友子の生活費を送金している状況で、その生活は概ね安定し家庭内も平穏に経過しており、他方相手方は離婚後間もない昭和三五年一二月一四日沢村梅子と婚姻届を出して肩書住居に同棲し、当初子供相手の菓子果物店をしていたが、利益がないため止め、その後は右店舗部分を電気店に賃貸してその貸料月二、五〇〇円及び同店の手伝による収入、並びに鍛冶屋と農業収入更に右梅子の乾物行商の収入等により生活し、なおその後は右店舗賃貸を止めて自ら電気器具の電話取次による販売斡旋を行い、また出稼等をしているが、主としてその生計は農業収入に負うている実情で、その生活は必ずしも安定しているとは認め難いところ、申立人方と相手方の両家庭は同一屋根の下の住居を板襖や障子を釘づけにした程度の簡単な仕切を以て区分して隣合せに居住し、相互に私生活の秘密を十分には維持し難い不安定な環境の裡に生活を続けている状況である。
四、当事者双方が婚姻中に取得した財産の状況
申立人と相手方が前記婚姻中に取得した不動産等は別表記載のとおりであり、そのうち一ないし四、六ないし八の各買受代金及び五の建築代金は、いずれも申立人、相手方双方の稼働収益中よりこれを支弁したとはいうものの、相手方の収益は前記二の婚姻から離婚までの経緯中に記載した如く僅少に止まり、その大半部分は主として申立人においてこれを支弁したものと認められる。
而して別表記載の各不動産等のうち四の建物の使用状況は、そのうち二分の一の共有持分権者である加藤三男側においてはその部分を明確に区分し、その余の部分は申立人と相手方において前述のとおりそれぞれ使用しており、四の建物は一の宅地上に所在しているが、申立人はその母ヨネの時代より通じて既に約三〇年余にわたつて同所において理髪業を継続経営し、その顧客地盤や地理的環境の良好なこと等から、現住居を移転することはその営業の基盤を失うにも等しいものと認められる。他方相手方は申立人との婚姻後昭和二八年八月頃から現住居において鍛冶屋を営んではいるもののその営業は殆ど振わず、また電気器具の販売も八の電話を利用して取次をなしその口銭を得る程度であり、また三の田及び後記中原新治所有名儀の田並びに六、七の組合加入権、二の宅地及び同地上に建設されている五の作業場等は、すべて相手方において農業の用に供している現状であり、更に附言すれば、右五の作業場は多少の改造を施すことにより十分居住に堪え得られるばかりか、現住居よりも右農地に近く、また相手方の生家にも近接し、相手方にとっては利便の地に位している。
なお相手方は、以上の外中原新治所有名義にかかる秋田県仙北郡田沢湖町○○字○○○○○○○番の畑二反八畝二五歩(現況田)を耕作収益しているが、右畑は相手方が中原新治に対し昭和三一年一一月二五日から昭和三三年一一月二一日までの間五八回に合計金二二万〇、二七五円を利息及び弁済期の定めなく貸付けた代償として、相手方において耕作収益を続けているものであるところ、右貸金もその資金の大半は申立人よりこれを支出したものと認められる。
第二、財産分与
一、相手方の主張について、
相手方は、離婚に際し親族立会のうえ、前記第一の四の当事者双方が婚姻中に取得した財産については、そのうち申立人の現在使用中の住居、宅地部分は申立人の所有とし、その余はすべて相手方の所有とする旨財産分与の協議が整ったものである旨主張しているが、前掲各関係証拠によれば、右離婚の際には単に暫定的に別表記載一の宅地、四の建物につき現況どおりの使用区分を定めたに止まり、相手方主張の如き財産分与の協議が成立したものとは認められない。
二、財産分与
以上詳しく認定した諸事情を、離婚に際して夫婦財産関係の実質的清算を図るとともに、離婚後の扶養的機能と有責配偶者への制裁的機能を併せ営む財産分与制度の本質に徴してあれこれ考え合せると、相手方は申立人に対し、財産分与として別表記載一の宅地及び四の建物の相手方持分権全部を分与し、相手方において手続費用負担のうえ、その所有権及び持分権の各移転登記手続をすることが相当と認められる。
よって主文のとおり審判する。
(家事審判官 柳瀬隆次)
別表
番号
不動産等
所在地
所有名義
離婚当時の時価
備考
一
宅地三六坪
秋田県仙北郡田沢湖町○○字
○○○○○番の○
相手方
三三四、六五〇円
四の建物現在
二
郡村宅地一七歩
同県同郡同町○○字○○○○
○番
相手方
二五、五〇〇
五の建物現在
三
田 二反七畝九歩
外畦畔 一畝一五歩
同県同郡同町○○字○○○○
○番
相手方
四〇三、二〇〇
四
木造草ぶき平家建店舗一棟
建坪 三坪七合五勺
附属
木造草ぶき平家建居宅一棟
建坪一五坪七合五勺
木造草ぶき平家建店舗一棟
建坪 三坪五合
木造草ぶき平家建居宅一棟
建坪 二七坪九合五勺
同県同郡同町○○字○○○○
番地
家屋番号 同所第○○番
相手方
加藤三男
共有
二五三、三六一
五
亜鉛メッキ鋼板ぶき二階建作業場一棟
建坪 二一坪
階下 一二坪
葺おろし庇付き三坪
階上 六坪
同県同郡同町○○字○○○○
○番地
登記なし
五〇、四〇〇
六
卒田神代牧野農業協同組合の
加入者として持分七反六畝の
権利
同県同郡同町○○字○○○○
○番の○同字○○○○○○○
番、同字○○○○○番
相手方
六四、六〇〇
七
卒田神代部分林組合の加入者
として持分二畝三歩の地上権
の一〇分の七の権利
同県同郡同町○○字○○○○
国有林六八林班二小班
相手方
一、四七〇
八
電話加入権 神代局○○番
相手方